1)日本の進路・長期目標については、世上提案が全くないわけではなく、地球温暖化防止を掲げ、それに向かった技術開発を中心に、あるいは、高度医療技術開発などもこれに加え、開発投資をその核として、上げ潮政策をとれ、あるいは、科学技術立国を図れ、という案がちらほらとは、聞こえるようではある。しかしながら、現状の百年に一度とも言われる不振状況を前提とし、一国の発展を長期安定的に進めるための目標としては、これらは、やや全体像把握のための情報が乏しく、例えば、プロジェクトの資金繰りはどうなるのか、労働力不足について、質量ともに問題は起きないのか、等、説明不足が感じられる。つまり、明確な部分とは、狭過ぎる局部的な動きについてだけの話となっている点に、それとはない不安感、物足りなさが強く残るような気がする提案である。つまり、夢は語っているのではあろうが、現実問題としてはピンと来ないという面がある。現在の閉塞状態は、もっと国民生活に密着したところにまで浸透するような施策についても、目配りをしてもらわないと、その望ましさが国民には伝わらないのでは無かろうか。現状、日本経済は、規模的にはまだ水ぶくれのようで大きく見えてはいるが、では筋肉質の良好な状況かと考えてみると、失われた10年の経過を通じて、相当な質的劣化が進んだ部分が少なからず目につくところである。少子化の進行然り、貧困対策の不足然り、年金保険制度の不安定然り、高齢者医療保険制度への不満然り、政策の優先順位を決める指導者の指導力・説得力の無いことも然り。また指導者の不備を補佐する名参謀役についても余りにも手薄であること然り、まことに寂しい寂しい状態である。此は、与党も野党も、官僚達も影が薄く皆然りと言えよう。このような質的な劣化について、その原因療法をどう進めていくのかについてのビジョンが、国民には示されていないのである。先行きの長期展望を明るくするためには、もっと国民経済の基礎的部分にまで、鍛錬が行き届くような、そんな、より直接的な、原因療法を別途並行的に必要とするほどに、現在の日本経済の状態は、悪化の病巣が国民生活に密着・浸透してしまっているように思われる。つまり、国民経済全体が、生活習慣病に冒され、基礎体力が相当落ちているのではないかと懸念されることになる。そうだとすると、先進的な部分をリーディング産業として育成すれば、それだけで当面の困難を乗り切れると考えるのは、見方が甘いということになるだろう。筆者はそのように考えるものであるが、一方、世間一般からするとこの見方は、KY人間の見方ということになりそうなのである。以下に説明する「抗少子化対策」という一連の諸施策の試案については、このようなものを敢えて提示することが現状必要ではないかと考えて行っているものである。
2)「抗少子化対策」を日本の進路・長期目標として推薦する理由については、かなり突っ込んだ説明が必要と見られる。日本の進路の長期目標としては、既に拙著(注1)で「最大多数の最大幸福」という抽象的な表現で、第一段階の説明を行い、その内容とするところは、全体としての成長政策(最大幸福)と、最大多数に通じる格差是正・貧困対策のバランスの中に、それを求めることを説明してきたつもりなのである。この内容は多項目を含むもので、説明は単純明快とは言い難い。内容の中味について、枝葉末節は到底説明しきれないが、幹の部分くらいは説明しないと、多くの人々の理解を得ることは難しいと見られる。此は困難なことではあるが、以下幹の部分の概要説明を、また、次回以降にずれ込むこともお許し頂くものとして、その解説に挑戦してみたい(注2)。
(注1)『日本の針路・戦略不在システム「カイゼン」への道』ブイツーソリューション発行。アマゾンで
も一般書店でも取り扱い有り。
(注2)この内容説明は、選挙用マニフェストの優良見本として、本年5月13日、4月15日、4月30
日、と順不同に説明しているが、これらは、やや断片的となったきらいもあるので、今回は各項
目の相互関連性にとくに留意しながら、その再説明を行いたい。
3)表題の、少子化対策が、何故長期の成長戦略の中心になるのかという点については、大風が吹くと桶屋が儲かる式の7段論法ではないかと見られそうではある。つまり通常では、これは生活上の自然現象で、少子化は経済活動とは関係がないと見られそうなのであるが、この関係がないとするのは、実は短期に限っての見方なのである。少子化は長期的に見ると(短期の需給均衡とは別に、長期的な動学としての均衡を考える視点に立つと)、労働力供給の減少となり、生産を引き下げる要因となる一方、その前に、生まれたときからの人口の増加という面からは、人口増加(減少はその逆)は、衣食住関係の消費需要の増加と直結するという意味で、需要面からの生産や国民所得を引き上げる要因(人口減少は引き下げる要因)として働くことになる。生産には、生産設備の維持補修・増設・効率化のための設備投資など、付随する需要増加(波及効果・乗数効果)もこれに加わる。少子化対策は、短期的にはともかくとして、長期的には、成長力を維持、向上する方向でも働く力になることは、以上の説明から、ご推察いただけると思われる。
かくして、現在の不況状況は、かなり前から、失われた10年として問題となり、一旦その原因となった、不良債権、過剰雇用、過剰設備が、ほぼ解消したのに、まだ問題として取り上げなければならない未実行の原因療法が残存している事態にあるものと推察される状況なのである。その原因療法の一例が抗少子化の対策である。それゆえ、麻生前首相が、景気対策が最優先として、少子化傾向に関係がある年金改革問題等を、封殺しようとしたことは、日本の針路とか日本の取るべき戦略としては、間違っていたということでは無かろうか。その故もあって、自民党は総選挙で敗れたと言えないこともないのである。
4)丁度こうした事態を説明する良いきっかけとして、日経新聞平成21年11月21日「U−29」欄記事を取り上げたい。その表題は、「少子高齢化何故対策後手に?」というものである。
U−29とは、UとはアンダーのUの意で、29歳以下の若者を指す。この欄はU−29向けの記事、U−29の考え方やその動向を伝える記事欄ということであろう。
欄の導入部、総論と言える部分を以下引用・紹介しよう。
『日本の財政や社会保障制度の改革は待ったなしだ。税収は落ち込む一方、医療や介護、年金などの費用はどんどん膨らんでいく。だが、物心ついた時から少子高齢化社会を生きてきたU−29(29歳以下)世代には疑問がある。「お年寄りが増える、子供が減るって、ずいぶん前から分かっていたことでしょ。計画的に対策は打てなかったの?」』 以上が引用文であるが、正に当然の疑問だろう。そして、本文には、その言い訳が続くことになるが、説得的な答えはないのである。親子の会話形式で書かれており、子供からの発言には、「(2007年度の社会保障費は)過去最高でしょ。このまま膨らみ続けたら、税負担も増えるんだろうな。」また「年金支給額は減ってくみたいだし、私たちの将来は不安ばかりね。」と言うのがあり、これに対する親の答えには、「君たちの世代の不安が、年金保険料未納の一因なんだろうな。」というその返答に当たる発言もある。また、親の発言に、「無策だったわけではない。消費税率を上げたり、2000年には介護保険制度を始めたり。制度の見直しは常にされてきた、といっていい。」という発言もある。この親の答えについては、対策は対症療法ばかりで、原因療法にはなっていないという解説をするのが、マスコミの役割だと思うが、この記事にはそれがない。マスコミも2流と筆者が此まで記述してきた理由は、このようなピンボケの点がその根拠である。子供にもこの点に違和感を感じる感性はあるようで、子供の発言に、「他の国の制度を参考にした政策なの?」と、そのような政策はないのかとの質問をさせてはいるが、母親が、「日本の少子高齢化は世界に類例のない急速なもので、明確なお手本はないの。」と、的外れな答えを書いている。つまり、少子化対策としてフランスは、子供手当を多額に支給し、また、母子家庭が子育てをしやすい環境作りにも各種の努力が為されており、その結果、フランスは、出生数向上に成功していることを、この母親は知らないことにして、この記事はお茶を濁す事としている。一般の親の認識がこれに近いとしても、U−29向けの記事としてみれば、やっぱりマスコミは真実を隠した2流の解説記事を書き、お粗末なのである。取り上げたテーマは良いのだが、U−29を騙すような記事を書いては、無責任のそしりを免れないと言わなければならない。
5)「U−29世代の疑問、ずいぶん前から分かっていたことなのに、計画的に対策が打てなかった原因は何か。」という質問にはどう答えるのが良いのか。これが答えられなければ、これを修正するための対策など、そもそも取り上げることが出来ないだろう。
そうした現状認識に立って、KY人間である筆者が答えるとすれば、それが日本人の特性だからと言うことになる。つまり、日本人の親、大人、マスコミは、日本教という慣習・陋習に縛られているからと言うことになる。
この説明をするために、次のようなパーティージョークがあるということを紹介しよう。
『タイタニック号が氷山に衝突し、間もなく沈没必至、救命ボートは乗船者の半分以下の人数しか収容できないことが分かっていた。船長は、婦人子供を優先して救うこととし、それを次のように巧みに実行した、というのである。
まず、米国の男性が救命ボートに乗りにきた。船長は、婦女子優先の行動をすれば、君は「ヒーロー」になれるぞと話す。当然米国の男性はヒーローへの道を選ぶ。次に、ドイツの男性が来る、船長は、婦女子優先が規則だ。と話す。ドイツ人は当然のこととして規則に従った。次に日本人の男性が来た。船長は、他の日本人男性は、みんな救命艇には乗らなかったよ、君は一人だけ乗るのかね。と聞く。日本人は、あわてて、皆と合流したという。』
以上が、ジョークの概要である。フランス男性への殺し文句もあったと記憶するが、思い出せないので省略させていただく。このジョークを紹介させていただいた目的は、日本人は、自主性に乏しく、外国人と比べると、日本人集団から外れることを極端に恐れる特性・習性があり、これが国際的にも認知されているということである。此は当然、近代市民社会・民主社会とは違和感のある世界である。近代市民社会は、自由・独立・自尊・自律(自己規律)の面がなければならない。
そうして、このような日本人の特性は、実は太平洋戦争中にも表れ、日本の敗戦の原因の一つともなったし、特に、戦争遂行において、国民の多数を無駄死にさせる原因ともなっている。この点を、特に問題視して、故山本七平氏は、「日本は何故敗れるのか」という優れた著書を出されているし、拙著の『日本の針路・戦略不在システム「カイゼン」への道』においても、同氏著書の内容を紹介させていただきながら、私見の要点を説明をさせていただいた。
6)以上、ことほど左様に、抗少子化対策を中心としながら、現在の不況を日本の明るい将来につなげて行くためには、かなり複雑な戦略の集合・パッケイジを必要とする。これには、原因療法を中心としながらも、対症療法も一部必要になっている。即ち、複数の対策が、ウエイトの構成比を変えながら、時系列に沿って、適時適切に処方されていくことが望まれることになる。この施策の優先順位付け、ウエイトの最適配分も、理屈に立って説明できる施策のパッケイジでなければならないということになる。
この戦略的政策パッケイジの説明は、紙幅の関係で、その根幹部分の概要にとどまらざるを得ないとは思うが、日本市民のお任せ民主主義を改善する上で、多少でも役立てばとの思いで、次回以降で概説をしたい。

