◎マニフェスト選挙と少子化対策について
前回5月13日に、漸く日本のマスコミが少子化対策が必要なことにつき新聞の社説として言及したことを取り上げた。勿論此は取り上げないよりは一歩前進で、後退続きの潮流の中で、此は大いに評価すべきことなのであるが、しかし、その内容については、此は日本の針路の正否に拘わることであるだけに、筆者としては5点ほど問題点を指摘しないわけにはいかないのである。
第1の問題点は、少子化の危機の深刻さ・事実関係の説明は、隠しようもなくその通りに書かれているが、これに対する対策の主張が余りにも手ぬるい点である。つまり、これでは、日本の明るい未来は到底描けないし、また、明るさが感じられないからである。
先ず、この点を念のため確認しておこう。即ち、事実関係からすると、人口危機の最初の難所は21年後の2020年で人口のうち後期高齢者が20%を占め、15才未満の子供は10%にとどまる。その25年後の2055年はもっと惨めだ、後期高齢者が27%となり、子供は8%となる。生産年齢人口は、総人口の半数しかいない(以上出所:日経新聞)。この状態では、現役の給与の50%水準で年金支給を開始するという現行年金制度維持が出来ないのは、余りにも明らかであろう。年金制度維持のために、消費税の増税に次ぐ増税を繰り返しても、逆三角形のような人口構成では、この制度は維持出来ないのである。おそらくその危機の萌芽は、5年もたたないうちに、2階建て年金部分の年金基金運営が行き詰まる形で、年金制度破綻が表面化して来るのではないだろうか。
それにも拘わらず、これに対する対策としてマスコミの説く政策とは、実に悠長である。前回のブログでは、記述が「緩やかな目標を」という結論部分だけのため、説得力に欠ける恐れがあるので、「緩やかな目標を」の具体的内容を紹介しよう。すなわち、この目標とは、総合研究開発機構(つまりは経済企画庁の外郭団体)が提案しているもので、先ず当面は10年程度をかけて、現状1.2(ただし先行指標の東京都では1.0)の出生率(合計特殊出生率を指す)を1.6に回復させ、その間に年金制度や税制の再設計をする。そして、その後2050年にかけて出生率を2.0強に戻していけば、総人口は9千万人での安定が望める。最初の10年が勝負所である。(以上)というものである。正に、願望の表明だけで、具体策による裏付けのない、お役所が責任をとらないための玉虫色の作文である。太平洋戦争中の、神風が吹くから、また、神風特別攻撃隊があるから、日本は負けない、という思考様式と同様の日本教(注)と言うべきものである。これは、願望であって、政策とは言えないだろう。せいぜい対症療法であって、原因療法では有り得ないものである。つまり、この程度では、年金破綻に対しては、手遅れになるし、日本民族の少数民族化、民族絶滅の趨勢には、ブレーキは掛かりそうにないのである。
(注)日本教については、過去ログから既に消えているので、「日本教」の命名者、故山本七平氏の
著書「日本はなぜ敗れるのか」角川書店(文庫本)、または、拙著『日本の針路・戦略不在システ
ム・「カイゼン」への道』、第1章 c)節 D項を参照。
さて、第1の問題点について、冒頭に、対策は手ぬるいと書いたが、酷評すれば、官僚もマスコミも、気が付かなかったわけではないという「アリバイ」を述べたものという気配がしないでもないからである。
第2の問題点は、少子化の1因には、「プレストン効果」が働いていると見るべきではないのか。そうであれば、これに対しても、きちんとした原因療法が準備されなければならないと思われるが、この点については、与党も野党も発言が曖昧かつ、殆ど無策と言えるのではないのか。マニフェストには、両サイドから、此についての明確な考え方、具体的対応策について、それぞれ述べてもらいたい。要は、世代別の分配の不公平に対し、どう考え、どう対処するつもりかを、態度表明してもらいたいのである。
煩瑣となる点はお許し頂きたいが、先ず「プレストン効果」について解説する。米国人口学者のサムエル・プレストンは80年代に貴重な視点を提供した。「少子高齢化社会では政界や産業界の関心が多数派の高齢者に向かいやすい。割を食うのは少数派の若者だ。」日本でも、小渕少子化担当相は会合で「若者への投資が十分ではない」との発言を行っている。また、日本の投票者は2007年時点で、60才以上が(人口の)40%、40才以下が23%。世界の先頭を走る少子高齢化大国日本で、プレストン効果の弊害が現実味を帯びてきた。(以上・出所:日経新聞、5月8日記事)
かくて、プレストン効果の悪影響が、現行の年金制度にも出ており、この制度の抜本改革がないと、少子化はますます進みかねないという現状認識が必要と筆者は考えている。
つまり、若者は、現在の官僚癒着の政治に対し、不信感を持ち、比喩的に言えば、昔の悪代官に対し、田畑を放棄して逃散をするという抵抗運動が始まっており、此が、保険料の未納として表れたり、国民年金に未加入になったりと、はたまた、国外移住を指向する者さえ有るという動きにもなっているのである。
長くなるので、第3の問題点(教育)、第4の問題点(官僚のセクショナリズム)、第5の問題点(対策としてのオンブズマン制度の必要性)、については、2週間後に投稿したい。

